日本神話で国を形作る力は武力ではなく生成力
2016/02/04
日本神話『古事記』を読むと、古代の人が国を作る上で必要な力を、どのように考えていたかがわかります。
生成力が神格化した神様
『古事記』に高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)という神様が出てきます。
「タカミ」は高い状態という意味。「ムス」は産むす、苔むす、で生成力の意味。「ヒ」は霊力。
産む力、生成力が神格化した神様です。
高御産巣日神は『古事記」で2番目に登場する重要な神様。最初だけでなく、この世が作られ、国の形が固まっていく、物語全般を通じて登場します。どの場面でも、その生成力を発揮して、日本の国の完成に向かって重要な役割を果たすのです。
生成力の神様が世界を作った
高御産巣日神は「司令神」として、いわば野球チームの監督のように神様に指示を出して、この世を作り秩序を定めていきます。
まず他の天つ神と一緒になって、男女の神イザナキ・イザナミに「国生み・神産み」を命じ、国土や重要な神様を生ませます。
オオクニヌシがニニギに国を譲るいわゆる「国譲り神話」でも、アマテラスと一緒に、あれやこれやと指示を出しています。
第1代天皇の神武天皇が東征をする際、ピンチを救ったのも、高御産巣日神でした。
生成力の神様・高御産巣日神がこの世界を作ったのです。
「自分勝手に神話をつくってはいけない」
さて、最近facebook等で日本神話の天つ神と国つ神の対立を、次のように捉えて論じる人を見かけます。
天つ神=天皇=支配者 国つ神=先住民=被支配者
「今の日本は、天皇に支配された国。本当の日本国民は天皇に封印され、現在も虐げられている」
つまりは、思想的に偏った人たちが、現在の天皇は正当な存在ではないとして、記紀を持ち出してそう言うのです。
私も大学生の時、そういうのにハマった時代があります。「ヤバイ、裏の日本史じゃね!?」「今の日本に封印された存在が!?」と厨二病のようにはしゃいでました。けどゼミの教授に一喝されて少し落ち着いたんです。
金太郎:天つ神って渡来系の人たちで、先住民である国つ神を駆逐していったのでしょうか!?
教授:金太郎くん、落ち着け。いいか、どこで読んだかは知らないが、少なくとも『古事記』にそんなことは書いていない。『古事記』はひとつの完成された物語だ。外部から話を切り張りすることはできない。他のところから設定を持ってくると『古事記』を離れて、新しい神話をつくってしまうことになる。『古事記』の疑問の答えは全て『古事記』の中にある。探してごらん。
『古事記』の中にゴリゴリの武闘派はいない
『古事記』の中では、敵を殺戮し尽くすことはありません。征伐に赴く天皇側の神様や天皇も、武力一辺倒ではないのです。
スサノヲのヤマタノオロチ退治では、まずお酒をヤマタノオロチに飲ませて酔ったところを斬っています。
ヤマトタケルの熊襲征伐でも、クマソタケルが新築パーティーをしているところへ、ヤマトタケルは女装して堂々とクマソタケルに近づき、征伐しています。
こうしてみると『古事記』においては、たとえ討伐であっても武力よりは知恵や策略が重要視されていることがわかります。
オオクニヌシが備えた力もソフトな力
地上世界を作り上げたオオクニヌシも、医療の神様という性格を持っています。「因幡の白兎」は誰もが聞いたことがある神話だと思いますが、病気のウサギを治療してあげる話です。
小さいウサギにも優しいオオクニヌシは、文字通り優男。ことあるごとにたくさんの女性から助けてもらうのです。今で言うところの「愛されキャラ」でしょうか。国づくりの場面でオオクニヌシの武力行為が語られることはありません。
オオクニヌシの国づくりのパートナーはスクナビコナと言い、神産巣日神の子供です。またしても生成力の神です。
国のかたち
討伐も武力だけでなく知恵も使って穏便に。国を作った大いなる神様は医療が得意な心優しい愛されキャラ。
こうして『古事記』をみていくと、古代の人たちが日本という国をどういう風に捉えていたか、なんとなく見えてきませんか?
少なくとも、天皇に虐げられて封印されて…なんて話は見えませんよね。
まだ私も勉強不足です。興味ある方、声かけてください。一緒に勉強しましょう!